2010年06月29日

『お客様を素敵にするビジネス(仮)』の初稿を公開しています。【序章まとめ】

現在、執筆中の『お客様を素敵にするビジネス〜Branding in Next Decade』(仮題)の初稿原稿です。
まだ初稿ですので、皆さんのご意見を戴きながら手直しをしていきたいと思います。どうぞコメントか、あるいはメールください。
御礼として、出版時に献本させて頂きます。

○全体の構成は「序章」+「本文6章」+「終章」です。

※序章の最後を書き直しました。

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お客様を素敵にするビジネス

―未来をつかむブランド経営―

 

 

 

 

 

 

 

初校

 

 

 

 

 

 

ブランドロジスティクス有限会社

小出正三・小出ユリ子

 

 


 

はじめに〜十年先に輝くブランドづくりを目指して。

 

 ブランドづくりというのは、大変時間がかかる仕事です。

 自社の技術を磨くだけでは足りません。社内の推進体制を整備し、取引先との協力関係をつくり、そしてお客様との信頼関係を築く・・・。

 お客様や取引先、そして何よりも社員に敬意と愛着を持たれるブランドに育つには、五年以上、時には十年という月日を睨んで考えなくてはなりません。もちろんこの本はその期間を出来るだけ短くしたいと考えています。しかし、今日明日の内にブランドはつくれるとお約束は出来ません。ブランドをつくると言うことは決して簡単なことではない・・・それは、皆さんにもお分かりのことと思います。

 それでも、ブランドをつくると言うことは一生をかけるだけのやり甲斐のある仕事だと思います。それは、あなたが仕事を通じて、お客様を、取引先を、社員を、そしてご自身やご家族を幸せにする素晴らしい挑戦です。確かにビジネスの成功をお金や名誉で量ることも出来ますが、幸せで量ることもやり甲斐のあることではないでしょうか。この本の根底には、ブランドによってビジネスを幸せなものにしたい、という願いが込められています。

 

 ところでブランドづくりには5年、10年という時間がかかると申し上げましたが、その間に世の中も変わっていきます。ですから、5年、10年を覚悟するだけでは足りないのです。5年、10年先の未来にも、その時の最先端を行くブランドづくりを行わなくてはなりません。では、その最先端のブランドとは何か。それがこの本のテーマです。

 この本は、10年先を見据えてブランドづくりの本なのです。

 現在のブランドづくりの多くは、メーカーが経済の主役、大量生産時代の方法論です。経済が高度情報化社会に移行し、同時に消費者が主役となる時代には、新しい方法論が必要です。この本は今までのブランドづくりを超えて、新しいブランドづくりの方法を考えるための本なのです。

 世の中が変わるようにブランドづくりも変わります。すべての変化が好ましいわけではありませんが、好ましい変化をビジネスにもたらすためにいっしょに新しいブランドづくりの方法を考えましょう。

 

この本のテーマは、「ビジネスとはお客様を素敵にすること」です。

 

 この本のテーマは次の一言で表現できます。

新しい時代のブランドづくりは、「素敵で賢いお客様を自ら積極的に育てていくビジネス」。特にあなたが「ブランド」を確立したいなら、何よりも「あなたのお客様を、あなたが賢くする、素敵に変えていく」ことをビジネスの最も重要な課題ととらえるべきです。

 

 この本の提案、それはブランド・ビジネスの目的を「お客様を素敵にする・お客様の成長をお手伝いすること」に置こうと言うものです。そしてその為に、お客様に賢くなっていただき、そういった素敵で賢いお客様としっかりおつきあいすることで、自分たちをも磨くということなのです。

 英語ではスマートという一語が「賢い・機知に富んだ」、「おしゃれな・洗練された、流行の」、「きびきびした」という言葉の広がりを持っています。お客様をスマートにすることこそがこれからのブランド・ビジネスの本質なのです。

 

 そして、それはもう一つ重要な考え方を導きます。即ち

付加価値とは、モノに加えられた有用性や希少性、差別化要素のことではないのです。付加価値とは「お客様の成長の価値」のことなのです。付加される価値とは、モノを通じて生まれる出会いの中で、お客様が自分の成長を実感する時、その実感によって生まれる満足のことなのです。本当の付加価値とはお客様の成長の実感のことなのです。

 

 「お客様を素敵にする・賢くする」という言葉を聞くと、何となく企業側の不遜さ・傲慢さを感じられる方もあるかと思います。私たちは付加価値とは、「差別化」や「限定戦略」などによって自社の製品の特徴を明確化すること。そして、その「認知」を上げることで市場シェアを押し上げ、自社を成長(主に財務的に)させることだと考えてきました。そういう考えの中では、お客様を成長させるというのは企業の思惑という鋳型にお客様をはめ込んでしまうように聞こえます。

しかし、お客様を素敵にするビジネスを行っておられる先駆企業の経営者は、決まって「私たちはお客様に育てて頂いている」、「お客様の満足と毎日競争している」、「お客様の厳しい眼無しに私たちは成長できない」とおっしゃいます。「素敵にする・賢くする」というのは、自らのビジネスのハードルを上げることであり、最も厳しいライバルを自らつくりだすことなのです。

 また、「お客さまを賢く・素敵にする」ということは、「お客様第一主義」とも微妙に違います。お客様第一主義は、極論すれば「お客様がお金を払ってくださるから、大事にしなくてはいけない」という考えを糖衣にくるんだものです。しかし、お客様のお金だけがお客様の価値ではありません。お客様にはお金以外に、もっと尊敬すべき価値があります。 「お客様を賢く・素敵にする」というのは、お客様にとってお客様の人生が変えがたいもの、大切なもので、誰かに利用されるために生きているわけではない、というしごく当然な原理から出発します。そして「お客様の人生が、お客様にとって代え難い存在、思考の存在である」ことをすべての付加価値の基盤におきます。お客様は私達の欲望を満たすための道具ではありません。むしろ、私達こそがお客様の人生を掛け替え無いものにするための道具なのです。

 

 だからこそ、ビジネスの目的が明確になります。それは

あなたが提供する商品やサービスを通じて、「お客様の人生を豊かにする」、「お客様が今まで知らなかった楽しみと学びを提供し、その日々を充実したものにする」こと。お客様を「消費者」や「顧客ニーズ」として自分の商売の都合で切り分けず、お客様の人生の豊かさから自分たちのビジネスを再定義することが可能になるのです。

 

 あなたがそのようにお客様の人生を一番に考える時、何が起きるでしょう。

きっとお客様は「自分を素敵に・賢くしてくれる相手(これはあなたです)とは、いつまでも「大事なつきあいをしたい」、と思って頂けるはず。そして、そのつきあいをより豊かなモノにするために、高い値付けであっても、納得して買ってくださる。いや、それどころか応援する側にまわってくださる。何故なら、高い値付けの理由が、作り手側の勝手な理由ではなく、お客様側の「自分の成長への対価」に変わるからです。まさに付加価値はモノから「お客様の成長」と「お客様とのおつきあい(縁)」に変わる瞬間です。

 

 これからの時代、ビジネスは二つに分かれていきます。一つは「円(お金)によってモノを買うビジネス」。こちらはお金の価値を高めるために、より安く、より早く、より簡便に、を競うものです。そしてもう一つは「円で縁を買う」ビジネス。こちらで高められるのは既に述べてきたように「お客様の成長」ですし、その成長のためには「よい縁」が必要なのです。これからのブランド・ビジネスとは、良いモノをつくる「モノづくり」以上に、良い縁をつくる「縁づくり」の比重が大きくなってくるのです。

 

 もちろん、そのように人間的な価値を大事にし、お客様とのつきあいを大切にしたい気持ちは社員にも伝わるはず。

お客様第一主義の限界である「お客様を収入=自分たちの道具として見る」を超えて、お客様の人生を尊重することは、多くの社員のストレスを大きく減らし、そのエネルギーを深い気づきと前向きで自発的な発想力に転化させます。そして社員は、お客様とのつきあいを大切にするために、自らを磨いてくれるはずです。つまり「人づくり」です。

それは私たちとお客様だけではなく、原材料を供給してくださる方、あるいは流通の方もまきこんだ、モノづくりならぬ「仲間づくり」に広がっていくはずです。

 

 つまり、「お客様を賢くする」ことで、ブランドづくりを従来のモノづくりの次元から「人づくり」、「縁づくり」に進化させていくことが、これからのビジネス、特にブランドを扱うビジネスにとってもっとも重要なことなのです。

 この時、ブランドはそこに関わる人の、その関わりの旗印になるのです。

 

 抽象的な話だと思われるかも知れません。しかし、この本が目指しているのは、ビジネスを「如何に上手くやるか」ではなく、全く「異なる発想でやる」ことにあります。

・ブランド・ビジネスとは「お客様を素敵に・賢くするビジネス」である

・高付加価値とはモノの差別化や希少性ではなく、「お客様の成長」からもたらされる。

・従って、ブランドづくりはモノづくり以上に「縁づくり」が重要になる。

・その縁づくりが、自分の会社の「人づくり」にもなる。

・またその縁は、お客様と自社だけではなく、同じ意識をもつ「仲間づくり」につながる。

 

 この本は「お客様を賢くする」という視点から、ブランドづくりを「モノづくりから人づくり、縁づくり」へと変えていく、その取組を具体化していくための本なのです。

 どうですか、その先に「ビジネスと幸せ」が少しだけ近づいたように思いませんか。それをハッキリさせるため、もう少しだけ、今度は用語を整理しておきましょう。

この本のアイデアを理解するために言葉を整理しておきましょう。

 

 考えを伝えるには、それを書く際に使用する言葉について共通理解が必要です。特にブランディングのような新しい分野では言葉を定義しておくことはとても大切なことです。そこで、本題に入る前に少し言葉の整理をしておきましょう。ちょっと遠回りに思えるかも知れませんが、これは内容の理解に大きな助けになるはずです。

 

「ブランド」対「ブランディング」

 

 たぶん、このあたりの言葉が一番、不明確ではないでしょうか。例えばあなたの会社の人間に、この三つの言葉の違いを述べよと聞いたら、それこそ聞いた人の数だけ答えが返ってくるはずです。しかし元々の言葉が違っていれば、そこからどれだけ議論を交わしても会社の方向性が揃うはずはありません。

 そこでこの3つの言葉の定義から始めましょう。なお、これから決めていく定義は、私の実務経験を通してもっとも多くの人が理解しやすい定義としました。

 

 ブランドとは、一義的には名称やロゴマークなどのことです。これらは通常、商標として保護します。また二義的には、スローガンやパッケージ、コミュニケーションなどを統一感と継続性をもって扱うことです。(これをブランド・アイデンティティと言います)

 なんだそんなことか、と思われたと思います。そうです、そんなことだけです。だから、誰でもブランドを持つことはできるのです。ブランドについての最初の議論には、難しい定義は似合いません。まずはこのような単純な、そして誰でも分かる定義から始めましょう。平たく言えば、ブランドとは名付けのことです。

 

 それではブランディングとは何でしょうか?

 これもシンプルに考えたいと思います。ブランド=名前(商標)としたら、その名前は何に対して付いているのでしょう?そう、ブランドとは名前、そしてブランディングとはその名前を「何に冠するか」を決めることです。商品やサービスに名付ければそれは商品ブランドになります。そして企業に名付ければ企業ブランドになります。

 この「何に名前を付けるか」ということ、簡単なように見えて、実は根本的な問題です。何故なら、昔のブランドは製品や生産者などその名前が指し示すものが具体的でした。しかし、最近では「自分たちの想い」や「他の人達との関係」などの具体性のない、実体を伴わないものまでも名付けの対象に含まれてきます。

 そのような変化がこの本を書く動機にもなっているのですが、それについてはもう少し後でもう一度お話ししたいと思います。

 

 さて、ブランドは「名付け」、そしてブランディングは「名付けの対象を決めること」です。卑近な例えをすれば、我が子に「この子にこうなって欲しい」と思う想いを定めることがブランディング、そしてそれにふさわしい名前を付けてあげるのがブランドです。

 最近ブランドについて複雑な議論が進みすぎて、この「良い名を付ける」ことの大切さが忘れられがちなのが気がかりです。我が子の例でも分かるように、良い名前を付けるというのはとても求心力がある方法なのです。もちろんその名前には意味、すなわちブランディングがある。

 この本では良い名付けをすることをブランド、その名前の対象を定めそこに意味を持たせる作業をブランディングと言います。そして、それを総称する場合はブランドづくりと言う言葉を使うことにします。

 

「マーケティング」と「ブランディング」

 

 この言葉も混乱を呼びやすい言葉です。これも私の経験から分かりやすい形で定義させて頂きたいと思います。

 

 マーケティングとは、ビジネスの為に「やれることはとにかく徹底して何でもやる」ということです。ただ、それだけ。ただし、それを徹底するのがいかに困難なことか。

 皆さんの普段の仕事を考えてみましょう。皆さんの仕事は「決まりきったカタチ」をたどることが多くありませんか。業種で決まる仕事、自社の商品・サービスで決まる仕事、その商品・サービスの流通慣行で決まる仕事など、仕事の多くは過去の慣性(惰性)が支配しています。その慣性にたいして「それで良いのか」、「もっとやれることはないのか」と考えるのがマーケティングです。マーケティングというと「調査」あるいは「流通・販売」のことと単純に考えられやすいです。それは「やれること」とはいったい何だと突き詰めるには、市場や競合を調査するしかありません。また、それを実現するには実現するための手段が必要で、その為には「流通・販売」は欠くことができないからです。

 マーケティングにとって調査や流通・販売は手段です。その本質は、何ができるか、やり忘れていることはないか、もっとできることはないかと貪欲に考え実行することです。

 

 それに対してブランディングとは、ビジネスの中で「やるべきでないことは絶対にやらない」ということです。正確に言えば「やるべきこと/やるべきでないことを明確にし、全員でそれを守る」ことです。

 従って、ブランディングにとって重要なのはポリシーや信条であり、またそれを組織内で徹底するための社内教育・意識徹底(インナーブランディングとも言われます)なのです。今までのブランドづくりでは広告宣伝やPRといった対外的なコミュニケーションに重点が置かれてきましたが、それはブランドづくりの2つの作業の内の「ブランド」作業に過ぎません。もう一つの作業「ブランディング」では内部へのコミュニケーションの方が重要になります。内部へのコミュニケーションであるブランディングと、外部へのコミュニケーションであるブランドが両輪となってブランドづくりが進んでいくのです。

 

「シェア(マーケティング)」と「ブランド(マーケティング)」

 

 マーケティングにとって最も重要なのは、いかに自社の生産量を大きくするかです。ご存じの通り、従来の日本経済を引っ張ってきた製造業では、生産量=コスト競争力であり、同時にそのコスト競争力こそが利益の源泉でした。また厳しい競争の中では、他社との相対的な生産量の差が、そのまま企業の競争力に直結します。ただし、その生産量を確実に市場で販売するか。従って、生産量をいかに販売量として実現するか、そして他社に対して生産量=販売量で相対的に優位に立つか、つまり高い市場シェアを獲得するかが一番重要な課題になります。

 いかに(通常は過剰な)生産量と(通常は過小な)販売量のギャップを埋めるかという課題に答える具体的な手段が、マーケティングの4P(製品、価格、流通、販促)があり、またそれを支えるもう一つのP(生産性改善)があります。

 

 それに対してブランディングにとってもっとも重要なのは「価格」です。

 既に申し上げたように、ブランディングとは「やるべきでないことは絶対にやらない」ことです。例えば、いかに売れるチャンスがあっても、それで品質が下がるなら(たとえ、それに気がつく消費者が百人に一人以下でも)決して売り上げを追わない、という決意です。これだけ聞くと、本当にかっこいいです。

 しかし、それは常に「多大な機会損失が発生する」ということです。ブランディングを目指す企業が挫折する原因は「背に腹は代えられない」あるいは「こんな好機を見逃すなんて経営者ではない」という機会損失への恐れです。経営者だけでなく、おそらく多くのビジネスパーソンにとって値引きよりも機会損失の方が何倍も恐ろしいのではないでしょうか。

 だからこそ、機会損失を埋め合わせるために高価格が必要なのです。一割、二割といった競争的な価格差ではなく、時に倍以上と言った機会損失を埋められるだけの圧倒的な価格差です。

 ブランディングにおいて高価格とは「あればよい」ものではなく、「なくてなならない」ものなのです。「価格から考えないブランディング」は市場開拓しないマーケティングと同様、ありえないものです。

 

 「販売の最大化を狙うマーケティング」、「価格のプレミアム化を狙うブランディング」。似ているようでいながら、その考え方はまったく正反対にあります。もちろん、売り上げ=販売量×販売単価ですから、実際のビジネスではこの2つをまったく切り離すことはできません。マーケティングの活動の中にもブランディングが必要になることはあります。またブランディングだからといってマーケティングを無視してはいけません。ただし、自社のビジネスの本質を考える際には、このように2つの異なる角度から考えてみることはきわめて重要です。ソニーの盛田昭夫・井深大コンビ、ホンダの藤沢武夫・本田宗一郎コンビを見ても、マーケティングとブランディングという2つの発想によって自社のビジネスを広い視野から見ることが大事だということが分かります。逆に言えば、これらの人たちにとっても、マーケティングとブランディングの考えは、それを使いこなすに得手不得手があるということです。

 他の方の良書では、「量を狙うビジネスをシェア・マーケティング」、「高価格を狙うビジネスをブランド・マーケティング」と表現しています。基本的にこの本の考えもほぼ同じなのですが、あえてシェア・マーケティングとブランド・マーケティングを「マーケティングとブランディング」という言葉で表現したのは、この2つをきちんと分けて考えるためには言葉も分けた方が良いと考えたからです。この点はご理解ください。

 

「モノづくりブランディング」と「関係づくりブランディング」

 

 さて、議論を整理しておきましょう。

 ブランディングとは、ブランド(名前)が何を指すのかを明確にすることでした。

 そして既に述べてきたように、日本では製造業(特に世界中でシェアを争う大企業)がブランドにおける主役だったため、名前をつける対象については「製品」あるいは「製品のつくり手企業」であることは当然と考えられてきました。

 これをここでは「モノづくりブランディング」と呼びましょう。

 この場合、価値は「モノ(あるいはその作り手企業)の中」にあります。だから、その価値を「知らしめる」ことがブランドづくりの最大の目標になります。すなわち「広告・広報こそがブランドづくりである」という考え方です。ブランドの入門セミナーで「ブランドって何ですか?」という質問の答えはばらばらなのですが、「あなたの会社がブランドになるというのはどういう状態だと思いますか?」という質問の答えはきまって「誰もが知っている、有名である」こととなります。このあたり、いかにモノづくりブランディングが皆さんの心の奥深くまで浸透しているかが分かります。

 

 ところで、最近はスーパーコピーという商品が出回っているようです。ルイ・ヴィトンやエルメスなどの「ブランド品」のまがい物です。ただし過去の模造品とちがい、プロでさえも見分けるのが難しいほど完成度が高いそうです。男性ならば(特にそれが、奥様や彼女にねだられて買わざるを得ない立場にあれば)「見分けられないなら、本物もスーパーコピーも変わらない」と考えるかもしれません。そうすると、本物とスーパーコピーの信じられないほど大きな価格差は、「モノの中」には見つかりません。そのブランドが持っている過去からの神話・スキャンダル、それを持っている人の社会クラス、さらには(上にもあるように)贈り主と貰い主の関係(「偽物を贈るはずがない」というお互いの信頼関係)が価格差を決めるのです。

 さて、この時に「ルイ・ヴィトン」という名前は何を指しているでしょう。そう、モノではなく、「歴史や社会階層、社会関係」を指していますし、そこに「価値」が見つかります。このモノの外にあって、モノと社会(人々)の関係から決まる価値に対して名付ける(そこに価値があるのだと識別できるようにする)ブランディングを「価値づくりブランディング」と呼びたいと思います。

 この典型例がハーレー・ダビッドソンというブランドです。ハーレーはメイド・イン・ジャパンのオートバイに品質で負け瀕死の状態の時に、「ハーレーを愛し続けてきた人々の信条やつながり」に価値を見いだし、それを「ハーレー・ダビッドソン・オーナーズクラブ」というブランドを冠します。アップルもマッキントッシュが登場した際には、「マッキントッシュ・ユーザーズ・グループ(MUG)」やそういった顧客の代表(エヴァンジェリスト)を大切にし、マッキントッシュを単なるコンピュータから社会を変えていく変革の旗印と位置づけたのです。

 

 ここで、少し本をめくる手を止めて考えてください。「モノ」ではなく「関係」をブランドの対象にする(ブランディングする)という可能性です。この本で扱うブランディングは、主にこの「関係づくりブランディング」です。「関係こそ価値の源泉である」というのは、今までの日本の常識的なブランディングと180度違います。だから俄には理解しがたいかも知れません。その理論と実践的なケーススタディーを紹介し、皆さんにこの反常識的なブランディングを知って頂きたい。それがこの本の狙いです。そして反常識だからこそ、競争に巻き込まれず十年先に輝くブランディングになるのです。

 

「関係づくりブランディング」、そして「付加価値」

 

 「関係こそ価値の源泉」と考えることはもう一つの反常識を生み出します。それは、付加価値に対してまったく新しい視点をあなたに開いてくれます。

 今まで、付加価値というと「従来のモノに新しい技術・機能をつけること」だと考えられがちでした。しかし、それはやがて誰かに追いつかれますし、何よりもモノづくりの大敵であるコスト高につながります。そういった付加価値が急激に陳腐化することは、最近のハイテク競争の中で誰もが体験してきたことです。

 ところが「関係こそ価値」と考えるこの本では、付加価値とは文字通り「モノの外から、モノに付加される新しい価値」と考えます。つまり「付加価値=関係」ということです。

 現代のように変化の早い時代にあって技術・機能の陳腐化は価格に対する新たな脅威です。オープンでフェアな競争は、一方で陳腐化と価格下落が常につきまといます。

 だからこそ、付加価値に対する新しいアイデア(=モノの外にある関係価値)を提案したいのです。

 この本では十年後に輝くブランディングとして「関係づくりブランディング」を提唱するとともに、それこそが次代の「付加価値」であると提案します。

 

 また、それに伴い品質に対する考え方も変わります。

 今までの品質とは「モノの品質」でした。しかし実際に消費者が正確にモノの品質を知ることはできません。ですからこの品質とは、実際は「信用」と言い換えた方が良いのかも知れません。信用とは「ここならば私を裏切らない」というネガティブな発想です。ただし、価格どっとこむやブログなどで品質情報が自由に発信される今、はたして現在のブランドを支える「つくり手側の一方的な情報優位」が崩れる可能性はあります。ましてや、「品質が誰の目にも明らかなサービス業」では既に崩れているといえると思います。

 一方で、関係づくりブランディングにおける品質とは見知らぬ他人に対する信頼と言っても過言ではありません。日本人のようにムラ社会的な発想(顔見知りや紹介を大切にする発想)からはなかなか生まれてこない感情です。しかし肩書きではなく、「ここにいたら楽しそう」、「自分が成長しそう」という相手に対するポジティブな感情や、自らリスクを取る発想こそが信頼なのです。信頼とは相手の確かさではなく、自分の相手に対する楽観的な態度のことなのです。

 

 私は関係づくりブランディングこそ、今求められる新しい成長の哲学です。個人的には日本を変える原動力になるとさえ思っています。ただ、それはこの本を読んだあなたがどう受け止めるかに任せたいと思います。私としては、この新しい考え方をあなたと分かちあえれば幸いだと考えています。

 

 

本書の構成と「マーケティングの4P+P」と「ブランディングの4P+2P」

 

 さて、ここまででこの本で使う用語(そしてその言葉を使う背景にある考え方)を紹介しました。ここからいよいよ具体的な考え方や実践を紹介していきたいと思います。それではこの本の構成について紹介したいと思います。

 マーケティングには4P(製品、価格、流通、販促)があり、またそれを支えるもう一つのP(生産性改善)があることは既に述べたとおりです。ではブランディングに、それに相当するものはあるのでしょうか?私は6つのPがあると思います。そこで、その6つのPを鍵にして、関係づくりブランディングの理論と実践を考えていきたいと思います。

 

○プロモーションはセルフ・プレゼンテーションに

 今までのマーケティングでは、いかに自分たちが優秀か、あるいは巨大かをマスメディアというこれまた優秀で巨大な手段を通じて伝えるのがプロモーションでした。まさに企業が自分を押し出していくこと(プロモートすること)だったのです。それに対して、これからのブランドはお客様の自己表現(セルフ・プレゼンテーション)の素材となることが重要です。パッケージやネーミングと言った基本的な部分から、ブログやツイッターといったクチコミメディアから雑誌やテレビなどのマスメディアまで、この表現の素材として使われるということがこれからのプロモーションの鍵になるのです。また、この自己表現という切り口から、小さな会社でも大きな会社に負けないコミュニケーションができる方法が見つかります。プロモーションからセルフ・プレゼンテーションへの変化は、まさに企業中心からお客様中心の新しいブランディングの大きな転換を示しています。

 

○プロダクツはプログレスに

 信用が信頼に変わると言うことは、製品・サービスの完成度よりも、その製品/サービスがどう育っていくかを楽しむ姿勢に変わると言うことです。現状の商品(プロダクト)よりも未来の期待(プログレス)が重要なのです。ここではお客様と共に成長する商品・サービスづくりを考えます。

 

○プレイスはコンタクト・ポイントに

 商品・サービスがお客様と共に育つものに変わる時、そこでは単に商品・サービスを販売する為の流通(プレイス)では収まりません。重要なのはモノを売ることではなく、モノを通じて関係することですから。ですから流通ではなく、トータルな顧客接点(コンタクト・ポイント)として考える必要が生じるのです。ここではお客様との豊かな出会いの場を考えたいと思います。

 

○プライスはパティシペーションに

 今までの価格(プライス)は「消費の効用(パフォーマンス)」によって測られてきました。しかし、その効用は当然ながら「安い方が上昇する」わけです。モノあまりの時代には、価格は恒常的なデフレ圧力がかかります。不景気だからデフレなのではなく、デフレ圧力は私たちの暮らしから生まれる日常なのです。だから、まったく新しい価格の考え方を考えなくてはなりません。お金を払ってくれるお客様が更に私たち(つくり手)を助けてくれ、私たちの代わりに売ってくれ、最後には一番の支え手になってくれることもありえるのです。価格を消費ではなく、何かの活動への「参加」として捉えるとき、まったく新しい価格体系が生まれるはずです。

 

○プロダクティビティはプロアクティビティとパートナーシップに

 このテーマは2つのパートで考えます。

 プロダクティビティ(生産性)は、モノづくりブランドを支える発電機のようなもの。直接は見えませんがその生産を支える重要な要素です。しかし、新しい時代においては生産手段を直接所有することはできません。なぜなら、それは社員の「頭の中」や「心の中」にあるもので、社員が辞めたら一瞬にして消え去るものであり、また「心意気」が無ければ完全には発揮されないものです。だからこそプロアクティビティ(自発性)が重要になります。最初に社員の自発性の開発、特にお客様の満足との競争と、そこから生まれるお客様のとの共創を考えたいと思います。ここまでは企業内のお話です。

 そして、次には企業と外部との価値づくり関係に話が進みます。

モノづくりブランディングの中心にいるのは企業ですが、関係づくりブランディングには明確な中心がありません。だからこそ仕入れ先、協力企業、流通、社会と一緒になって価値をつくらなくてはなりません。企業エゴや自前主義は新しいオープンで互酬的な関係に道を譲らなくてはなりません。企業の社会的な責任(CSR)にかわって、企業と社会との価値づくりの新しいパートナーシップが始まるのです。

 

 なお、6つの章にはそれぞれ一つ、先進企業のケーススタディーを載せ議論を深めたいと思います。ただし各企業はその分野だけを実現しているわけではありません。先進企業では程度の差こそあれ6つの課題を組み合わせて解決しており、たまたまケーススタディーで採り上げる際に、その一面に光を当てているだけであることはご理解ください。

 

 さあ、準備ができました。新しいブランディングの世界を、あなたと一緒に訪ねましょう。

 

posted by BLC at 17:28| Comment(0) | TrackBack(0) | お客様を素敵にするビジネス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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